平安から続くとされるとある暗殺一家の家系に生まれ育った。一族はその時代にあわせて、政治の裏で暗躍し続けていたようだが、やがて権力者たちに使い潰されるようになり、徐々に衰退の一途を辿っていた。そんな中生まれたのが己と己の双子の弟、栄真(エマ)であった。
母は無理やり結婚させられたこともあり、双子を産んですぐ精神を病んで自殺。現当主である父親も精神的に疲弊しており、兄弟が7歳になるころ、優秀な兄である叶輪を次期当主に据えるため過激な教育を始め、兄より微細に劣り、尚且つ己自身に似ているという理由で弟である栄真を地下の檻に閉じ込め、虐待まがいの洗脳教育を行っていた。その歳でいて、すでに精神がそれなりに熟していた叶輪は自身の一族に疑問を抱き、この家から弟と抜け出す術を考え続けた。人の目を盗みこっそり弟に会いに行くことも何度もあったが、歳を重ねるごとに弟の精神はどんどん壊れていき、しまいには人を殺すことにも、自身が不当に傷つけられることにも、疑問を抱かないようになっていったようだった。そんな弟に心を痛め、何もしてやれない自身の無力感に嘆く日々を過ごした。
そんな中18歳のある冬の夜。仕事を終え、こっそり弟の元に会いにいこうとすると、そこには弟の首を絞める父親の姿がいた。
「おまえが!おまえがいるから!叶輪はいつまでも腑抜け、弱者なままなんだ!…おまえさえいなければ!」
その瞬間、叶輪の中でぷつりとなにかが切れる音がした。
気がつくと弟を抱え、自身は血の海の中心に立っていた。父を手にかけ、騒ぎを聞き駆けつけた一族の人間を、皆殺しにしてしまったようだった。
誰かに目をつけられる前に逃げ出さなければと、弟の手を引いて家から出ていきがむしゃらに走った。外は猛吹雪。小柄な彼らには耐えられず、その最中であやまって、弟の手を離してしまった。
手を離したとき、一際強い吹雪に巻き込まれ、目を閉じた。ふたたび目を開けた時には、そこに弟はいなかった。